太田記念美術館収蔵品展
はじめに
今回の収蔵品展では、「市井の風俗を描く」「古典を描く」「顔を描く」とする三部構成とし、通常のテーマごとの展示ではあまり紹介されることのない作品を中心に展観いたします。本展を機会に太田記念美術館が有するコレクションの魅力を、より深くお楽しみいただければ幸いです。1.市井の風俗を描く
市井の風俗を描く作品の中から、戦国時代に制作された「洛外名所図」を中心に、庶民の生活を捉えた江戸時代の浮世絵を含めご紹介いたします。それぞれの時代を力強く生きる、人々の活気ある姿をご覧ください。2.古典を描く
浮世絵において人気の歌舞伎役者や美しい女性など、当時の流行の風俗を描くことはとても重要でした。しかし一方で『源氏物語』や『三国志』をはじめとする、日本や中国の古典世界をふまえた作品も多く見られます。時代の流行と古典世界とを自由に行き来する、江戸の人々の豊かな発想力をお楽しみください。(1)浮世絵にひそむ雅(みやび)-日本の古典-
『伊勢物語』「筒井筒(つついづつ)」の次の場面に取材した作品です。他の女性のもとに通う夫を機嫌よく送り出す妻に対して、妻の浮気を疑う夫は、一旦家を出た後、庭先に身を潜めて妻の様子をうかがいます。一人になった妻は夫の無事を気遣う和歌を口にし、その姿に夫は胸をうたれるのでした。本図ではこの貞淑な妻を、流行の着物に身を包んだ遊女に置き換えて描いています。
『源氏物語』を題材に江戸の名所を描いたシリーズ。配流となった光源氏は明石の地で、十三夜の日に明石の君と結ばれます。本図では、江戸の月の名所として知られた高輪と、平安時代の光源氏と明石の君との恋物語が重ねられているのです。
(2)浮世絵のなかの異国-中国の古典-
いたずらっこが少女の琴の稽古を邪魔しています。少年は奪った琴柱(ことじ)をこたつの上からばらまいています。実はこの琴柱は、源泉を中国山水画の「瀟湘八景」にさかのぼることができます。中国の洞庭湖周辺の美しい8つの景色を描くこの画題は日本でもさかんに描かれました。落下する琴柱には、「瀟湘八景」に登場する飛来する雁の姿が重ねられているのです。江戸っ子は中国の伝統的な画題さえ身近な情景に取り込んでしまいました。
本を読む、若く美しい新造(見習遊女)。実在する七人の新造を、中国の竹林に集まって清談を行った7人の賢人「竹林七賢」になぞらえたシリーズの一図です。背後の屏風に何気なく描かれた水墨画の竹も、遊郭を舞台に生きる新造と中国の賢人という、まったく異なる両者を結びつける重要なモチーフなのです。
3.顔を描く
いかめしい顔の老人を描く肖像画、あるいは美しく理想化された役者の顔。江戸時代はさまざまな顔が描かれた時代でもありました。当時の人々の顔を描くことへの関心に触れながら、どんな顔に出会えるか楽しみながらご覧ください。
渡辺崋山「芭蕉肖像真蹟」
6人の高名な俳人を描いたシリーズのうちの一図。芭蕉は穏やかな表情ながらも、眼には鋭さも湛えています。横には笠をくくりつけた杖があり、旅を愛した俳人のイメージがよく伝えられています。
<見どころの一点>
歌川国芳「通俗三国志之内 孔明六擒孟獲」(つうぞくさんごくしのうち こうめいむたびもうかくをとりこにす)
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |