江戸のパワースポット
はじめに
近年、癒しや運気アップを求めて、パワースポットと称される各地の神社仏閣や自然豊かな景勝地を訪れることがブームとなっています。実は江戸の人々も、パワースポットを訪れることを大いに楽しんでいました。霊験あらたかな場所に出かけること、それは信仰心を満たすと同時に、非日常の空間を楽しむ行楽としても重要なイベントだったのです。江戸時代も中期以降になると、街道が整備され、旅が少しずつ庶民にも親しみのあるものとなってきました。そうした風潮を背景に、江戸の人々は富士山や江ノ島、伊勢神宮や讃岐の金毘羅へ参詣に向かいました。巡礼の旅のなかで人々は日常からの開放感を満喫し、心身をリフレッシュさせたことでしょう。
現代よりも信仰の場が身近に感じられた江戸時代。当時のくらしと密接に関わりながら愛でられた江戸のパワースポットを浮世絵のなかに巡りつつ、その魅力に触れていただければ幸いです。
江戸の町のパワースポット
江戸の一年をみると、お正月の近所の氏神様や恵方神を参拝する初詣にはじまり、ほぼ毎日のように祭礼や開帳などの行事がありました。さらに人々は寺社仏閣だけでなく山や滝も信仰の対象として畏れ敬い、こぞって参拝に訪れました。老若男女を問わず、日々の生活は信仰と深く密着していたのです。そうした当時の暮らしの様子が、浮世絵のなかにはいきいきと活写されています。巡礼の旅 -全国のパワースポット-
街道の整備にともない、徐々に旅をすることが庶民にも手に届くものとなってきました。現在でもパワースポットとして大人気の伊勢神宮は、江戸の人々にとっても憧れの場所。伊勢参拝の様子を描く浮世絵からは、人々の熱気が伝わってきます。他にも浮世絵には、信仰を集めた諸国のパワースポットが多数描かれています。旅に出ることができない人々は、こうした浮世絵を見て霊場に心遊ばせたのではないでしょうか。<見どころの一点>
葛飾北斎「冨嶽三十六景 諸人登山」
白装束で山岳を登り、あるいは座って休息する男性たち。右上の薄暗い岩室の中では大勢の人がぎゅうぎゅう詰めになっています。描かれるのは富士講の人々が富士山の噴火口を巡る「おはち参り」の様子。本図は富士を描いた名作、葛飾北斎「冨嶽三十六景」シリーズの一図であり、富士登山に挑む人々の姿を捉えたものです。富士信仰がさかんとなった江戸時代、多くの人々が富士講という宗教組織を組み、富士山へ登りました。とくに街道が整備され、庶民にとっても徐々に旅行が身近になった19世紀以降、富士信仰はさらに隆盛を迎えブームとなります。「冨嶽三十六景」が制作された背景には、こうした風潮が存在しているのです。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |