『さくらさくら ~春の訪れ』
展覧会の概要
春の訪れを告げる桜の花は、現代の日本人にとっても最も馴染み深い花と言えます。私たちはその風情ある美しさにうつろう四季を感じ、花見は季節のイベントとして欠かせないものとなっています。
江戸っ子もまた、こうした桜の花とのふれあいを楽しんでいました。江戸時代は桜がさかんに植樹され、江戸の市中に数々の桜の名所が出現し、庶民が身近に桜の花を楽しんだ時代だったのです。浮世絵のなかにも、咲き誇る満開の桜や、散りゆく花びら、夕闇に浮かびあがる花の影など、春の情景をいろどる桜が様々に描き出されています。また、花の下を散策し、お弁当に舌鼓をうちながら花見に興じる庶民の姿も数多く登場します。
本展では桜を描いた浮世絵を紹介いたします。今も変わらない美しさで絵の中に咲く桜の花を楽しみながら、一足早い春景色をご堪能ください。
江戸の桜の名所
江戸時代、八代将軍徳川吉宗が町場の整備の一環として桜の植樹を行い、庶民の楽しみの場所としました。これにより現在でも人気の高い、寛永寺(現上野恩賜公園)や隅田川堤、飛鳥山をはじめ、御殿山(現品川)など江戸屈指の桜の名所が誕生したのです。絵師たちは、これらの名所に桜の花が美しく咲き誇る情緒ある風景を描き出しています。うつろいゆく季節を愛で楽しんだ、江戸の人々の豊かな感受性に触れてみてください。江戸っ子花に酔う
お花見は芝居見物や寺社参詣とならぶ重要なレジャーの一つでした。女性は花見のために晴れ着を新しくあつらえ、前日からお弁当の支度に追われました。また、桜の花の下で詩歌を詠むことも行われ、この歌のやりとりがときには男女の出会いを生むこともあったようです。絵師たちは桜咲く美しい景色だけでなく、こうした桜の下で非日常の空間に酔いしれる庶民の姿をもいきいきと描き出しました。
<見どころの一点>
歌川広重「京都名所之内 あらし山満花」
桜の花びらが舞い散る中、川の水面をするすると流れていく一艘の筏(いかだ)。本図は広重が金閣寺や祇園社(現在の八坂神社)など、京都を代表する名所を描いた全10枚の揃物のうちの一図です。嵐山は江戸時代にも名高かった桜の名所。道を行く柴を背負った農夫の姿からも、ここが静かな深山であることがわかります。広重は桜咲く嵐山ののどかな風景を、大堰(おおい)川を右斜め上から左下へといたる大胆な構図でとらえることで、動感に富み迫力に満ちた画面へとまとめています。また、薄いピンク色の桜と、青と白で表現された大堰川との対比も目に鮮やかです。春の情景をみずみずしく描き出した本図は、風景画の名手、広重による名品の一つです。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |