浮世絵にみる意匠 -江戸の出版デザイン-
企画展
2011年2月1日(火)~2月20日(日)
2月7・14日は休館となります。
※展覧会の図録は作成いたしません。
はじめに
浮世絵を見て現代の人が感じる魅力のひとつに、その優れたデザイン性があります。大胆な構図、鮮やかな色彩、そして画面にアクセントを添えるコマ絵や装飾…。浮世絵が印象派を中心とした西洋美術に影響を及ぼしたことは広く知られていますが、彼らを魅了した大きな理由のひとつに、そのデザイン性が挙げられることは疑いの余地がないでしょう。浮世絵の歴史を眺めてみると、それはまさにデザインの歴史とも言え、様々な構図や、色彩や、装飾的要素が少しずつ工夫され、長い年月をかけて発展したものであることが分かります。現代の商業デザインがそうであるように、浮世絵は商業的な枠組みの中で、版元や購買者のニーズにあわせて作られたものです。浮世絵を売るためには少しでも奇抜で人目を引くものを常に出版し続けなければなりません。そのため、絵師や版元は血のにじむような努力で新しい構図や、色彩や、画面を彩るデザインを日々考え出したのです。そうした過程を経て、幕末には浮世絵デザインの集大成とも言える、複雑なレイアウトや装飾を伴った高度な作品が大量に出版されています。
本展は江戸の人々を楽しませ、現代人をも魅了する浮世絵の高度なデザインが、どのように形作られていったのかを探る展覧会です。江戸の出版人たちの、細やかかつ大胆なデザインへの挑戦をお楽しみください。
浮世絵をレイアウトする ―判型や構図のいろいろ―
サイズの小さな「細判」、より大画面の「大判」、縦に細長い「柱絵判」、ワイドな横画面の「大判三枚続」、時には画面を線で区切って6分割や9分割にするなど、浮世絵ではその長い歴史の中でさまざまな「キャンバス」のサイズが考案され、絵師たちはそのサイズを生かしたレイアウトを考えました。例えば鳥居清長は縦に極端に長い柱絵判に、すらりとした女性の全身像を描き、勝川春潮は大判三枚続に女性たちの群像を捉え、勝川春好は浮世絵のサイズが細判から大判へと拡大する流れの中で、大判の大画面を活かして役者の顔をクローズアップする「大顔絵」を手がけ、のちの写楽らに影響を与えたのです。
浮世絵をいろどるさまざまな意匠 ―コマ絵とフレーム―
扇形、円形、州浜形、羽子板、鏡など、浮世絵師たちはさまざまなモチーフを用いて浮世絵を自在にデザインしました。これらのモチーフは人物の周りにほどこされる「画面枠(フレーム)」、現代のコミックに見られるコマそっくりの「コマ絵」などに用いられ、浮世絵に洒落たアクセントをつけているのです。単にデザイン的に美しいだけでなく、コマの中に絵に関係する風景が描かれていたり、謎ときが隠されていたり…。その趣向は、幕末に近づくにつれさらに洗練され、高度になっていきました。浮世絵師や版元の尽きないアイデアは、現代の目から見ても十分に楽しめるものといえるでしょう。<見どころの一点>
溪斎英泉 「江戸両国橋ヨリ立川ヲ見ル図」
両国橋を左手に、立川方面を眺めた風景画です。しかし絵を見るより先に、まず目に飛び込んでくるのは黒字に何やらアルファベット風の文字が並んだ画面枠。ほとんどは意味のない文字ですが、画面右上に一部文字が逆さまながら「Holland(オランダ)」と読める部分、数カ所にオランダ東インド会社の略称「VOC」をデザイン化したマークが見られます。面白いのが画面中央下に見える「板元」の文字と、その間にあるマーク。実はこのマークは江崎屋辰蔵の版元印で、周囲の欧風の文字にうまく溶けこませているのです。まるで西洋の額縁のようなデザインが効果的な一枚です。
入館料
一般 | 700円 |
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大高生 | 500円 |
中学生以下 | 無料 |